まずは、翠葉さんを追い詰めようと思った司の心情から。
なんとなく気づいてはいた……。
やっとわかった……。
今まで何度となくやってきたことなのに、なんで気づかなかったのか――。
翠を望むなら、翠を得ようとするなら、そのために必要なことはただひとつ。
翠を全力で突き放さす必要がある。
「なんで――なんでこんな面倒くさい人間なんだか……。こんな……したくもない回り道をさせる……」
それでも俺は突き放す。
容赦なく。これ以上ないまでに。
得るために、翠を突き放す。
そうしないと得られないから――。
実際はと言うと、秋斗さんの行動に頭の容量持っていかれていて、翠葉さんを追い詰めるっていうのがメインではなくなってしまったがゆえに使えなくなったもの。
どこかに入れたかったんですけどね。
入れられなかったんです。
結局、やってることは変わらないんですけども……。
お次は、翠葉さん尾行話。
当初の予定では、司に突き放された翠葉さんはひとり病院を抜け出して空港まで行く、という設定だったのです。
でも、大きな手術をしたあとだし、どうやっても警護についてる人たちを振り切れるわけもないし、と非現実的であることが発覚し、路線を泣く泣く変えたしだい……(苦笑)
(だから、上の司の追い詰めると決めた部分が書けなくなった、というのもあるのです(〒_〒)ウウウ )
お話しは翠葉さんが病院を抜け出し、タクシーを使って駅まで行き、始発電車を乗りついでリムジンバスに乗る直前に黒塗りの車に連れ去られたところからです。
「っ!?」
車はするりと走り出し小さくなっていく。携帯を取り出し、自分付きの護衛に連絡を入れようしたとき、見知らぬ車が自分の脇に停まった。
す、と窓が下がり、見知った顔がにこりと笑む。
「お車、ご入用ですか?」
支倉と名乗る男だった。
すぐ助手席に乗り込みドアを閉める。
「では、ドライブと参りましょう」
こんな状況で何を暢気に――。
そこまで思ってはっとする。
「なんで支倉さんがここに?」
支倉は相変わらずしまりのない顔で、
「いやですねぇ……。司様や秋斗様のすることをボスがご存知ないわけがないじゃないですか」
「……秋兄は知らない」
「関係ありませんよ。ボスの可愛いヒヨコさんたちは常に見られてますから」
これ以上無駄な会話はしたくない。
「前の車、追跡はできるんだろうな」
訊くと、
「その必要はありません」
「っ!?」
「そう焦らずに」
あくまでものんびりとした口調で話す。
「さっきの車のナンバーは覚えておいでですよね?」
覚えたてのナンバーを答えると、
「それは本家の雅嬢専用車のナンバーです」
言われて驚く。
「彼女が向かうのは秋斗様がいらっしゃる空港です」
「知っていることがあるなら全部話せっ」
イラつきを抑えずに言うと、ブルブルと震えて見せた。あくまで安定した運転をしながら……。
「雅嬢も見ていられなかったのでしょう。電車の乗り換えにおろおろし、バス乗り場で苦戦している彼女が」
……雅さんも今日の翠を尾行していた?
「今日のことはごく僅かな人間しか知らないはずだ……」
僅かな人間のうちには秋兄は含まれていない。翠の警護班は動かしているものの、それすら秋兄には伏せてもらっている。
「ボスですよ。ボスが雅嬢に話しました」
「っ!?」
「……詳しくは申せませんが、雅嬢はどうやらあのお姫様に救われたそうです。ですから、今回のこともボスから聞いて何かしたくなったのかもしれません」
「言ってる意味がわからない。雅さんにとって翠は嫉妬の対象になりこそ、翠に救われたなんてあり得ない」
「それがあるのだから世の中不思議ですよね~」
「あるわけない。翠と雅さんが接触したのは過去に一度だけだ」
越谷の件は、まるで関係ないとは言い切れないが、それでも翠とは接触などしていない。
「そのあたりは今度ご本人にうかがってみたらいかがですか? あ、追いつきましたね。ほら、あの車空港へ向かっているでしょう?」
翠を連れ去った車は確かに空港へ向う方へと指示器を出し、滑らかな運転で分岐を左に行った。
「シャトルバスに乗るよりもベンツのほうが乗り心地も良いでしょうし。お姫様にとっても良かったのではないですか? バスでは風邪をもらうんじゃないか、知らない人間に声かけられたりと、司様も心配が絶えないでしょう?」
どこか楽しげに笑いながら言われる。
「…………雅さんが敵意を持って翠に近づいてるわけじゃないなら、いい」
空港に着くと翠は車から降り走り出した。
「さ、ここからは司様の出番ですよ。いってらっしゃいませ」
最後の言葉を聞き終える前にドアを閉め走り出す。
雅さんの乗る車の脇を通ったとき、雅さんと目が合った。
ツン、とすぐに視線を逸らされたが印象が悪いわけではない。"キツイ"イメージはそのまま。しかし、悪意は感じなかった。
何より、翠をここまで連れて来たことがそれを証明している。
俺は意識を翠に戻し、白いコートを着た後姿を追った。
雅嬢をもう一度出したかったのですが、お話しのルートが変わったら出せないことに……。
でも、実は雅嬢、とても近いところにいます。
Season2に出てくるかもしれませんが、秋斗さんが立ち上げた会社の一社員です。
えぇ、実はとても優秀な方なので、そして即戦力になるほど語学にも長けており、心理学のほか、経営学もかじっているような人なので、海外拠点の責任者に抜擢されています。
それは国内では実家との折り合いが悪いのを考慮して、というもの。
海外には、彼女が初等部にいたころの保健医が在住していて、その人のもとで生活を再スタートさせる、という設定なのです。
(その保健医さんだけが雅嬢の心の傷を知っていた、という設定です)
あと、翠葉さんがひとりで動くと決まったときに司がとった行動のひとつ。
これを入れたいなぁ……、そしたらこれを(↑上の支倉さんとの会話)書き直さなくちゃいけないなぁ、と思っていた内容。
司×静さんのお話です。
「静さん、ゼロ課の人間はまだ翠についてますよね」
「あぁ……今度は何をするつもりだ?」
「とくには何も……。ただ、自由にするだけです」
「ほぉ……。それもかなりの力技で自由にするつもりか」
「……相手が翠なので」
「それの意味するところは?」
「……優しくするだけじゃなまぬるい。そんなんじゃあいつは動かない」
「……だから、追い詰める――か」
「…………」
「私としては親友夫婦の娘さんには優しくありたいんだがな」
「それはそちらの事情でしょう。こちらにはこちらの事情があります」
「察するよ。何せ、碧と零樹の娘だからね。差しあたって何をすればいいのかな?」
「ゼロ課だけで警護は不十分ですよね?」
「あぁ……そういうことか。警備を動かしたいんだな?」
「はい。秋兄に悟られず……」
「しかし、そこは私の管轄ではないし、秋斗に気づかれずに動かすのはかなり難しいと思うんだが……」
「だから静さんの権限が欲しい」
「……なんだ、すでに手配済みなのか?」
「唯さんの協力なしには無理でしょう? けれど、唯さんが犯罪を犯さず自由に動くには秋兄より力のある人間からの命令なり指示が必要になります」
「わかった。許可しよう」
「ありがとうございます」
「ただし――」
「心配なさらず……。翠の体はまだ万全じゃない。でも、こっちも強硬手段に出るからにはバックアップ体制は整えています。姉さんから聞いてませんか?」
「……聞いてないな」
「姉さんをはじめ、病院側を巻き込んでいます」
「なるほど。そこらへんは手抜かりなくということか」
「……自分だって、翠を危険に晒したいわけでも危険を冒したいわけでも苦しい思いをさせたいわけでもない」
「わかった。やりたいようにやれ」
「ありがとうございます」
本当はゼロ課を出したかったんです(苦笑)
でも、お話しのルート変わっちゃったから出せなかった(苦笑)
こうやって要所要所に置いておいたポイントを軒並みスルーされた件。
いつだって作者形無しです……orz
どんなに誘導をがんばってみてもそっぽ向かれてばかり。
悲しい……(〒_〒)ウウウ
それでですね、走りに走ってすっごく体調が悪い状態の翠葉さんが空港で秋斗さんを見つけ、秋斗さんに答えを言うわけです。
秋斗さんのことを好きだったけど、今は司が好きです、って。
その直後に倒れるわけですが、背後から現れた司が、
「やっと選んだ――バカだな。最初からこうすれば良かったものを……。翠がどっちを選んでも漏れなくもうひとりくっついてくるんだ。どっちかを失うことなんてあり得ない。俺たちのつながりを誰よりも知ってるくせに……。早く気づけよ……」
と、ボソリと呟くシーンなどがあったのですが(〒_〒)ウウウ
えぇ、ことごとくボツですよ、ボーツー(苦笑)
そのあと、ヘリで病院まで運ばれるのは同じなのですが、ICUで目が覚めたときのお話もボツ話としてご用意してあります(ただ単に本採用されなかったから“ボツ”という名のお話になってしまっただけ……)
目が覚めると秋斗さんがいた。そして、ツカサがいた。
「おはよう」
ふたり口々に言う。
私が何か話さなくちゃと思って口を開けると、ツカサに水差しを突っ込まれた。
「翠の話しは後。とりあえず診察が先だから」
ナースコールはすでに秋斗さんが押していた。
湊先生の診察が済むと、再びふたりがベッド脇にやってくる。
再度、私が口を開こうとしても、やっぱりツカサに遮られた。
「この人、とっととアメリカに行かせなくちゃいけないから、優先順位的にこっちが先」
秋斗さんは苦笑する。
「ごめんね。親御さんより先に俺たちいれてもらっちゃてるから」
そう言われてみれば……と思いながら、秋斗さんに視線を戻す。
「俺、会社を立ち上げたんだ」
「え……?」
「翠葉ちゃんに作ったようなモバイル医療機器専門のね。湊ちゃんたち現場の声を聞きながらあったら便利なものを作る会社」
いきなりすぎてなんの話をされてるのかに戸惑った。
「話を戻すね。翠葉ちゃん、今は司を好きでいいよ。両想いならふたり付き合えばいいと思う。でも、俺は翠葉ちゃんが誰を好きでもかまわずに君が好きだから」
「っ…………」
「うざったい? 重い?」
訊きながら笑う。
「でも、そのくらいは勘弁してほしいな。それに――またいつ心変わりするかわからないでしょ?」
ドキっとした。
「翠葉ちゃんは俺を好きだったのに、記憶が戻った時に司が好きで……そのことにひどく心を痛めたんでしょう? でも、俺はそんなの気にしないから……。願わくば、また心変わりして俺を好きになってもらえないかと期待する」
「図々しい……」
ツカサが零す。けれど、
「お前だって俺の立場だったら同じこと思うだろ?」
「……だろうね。実際、秋兄じゃなくて俺を好きになればいいと思ってずっと待ってたわけだし」
しれっと答えて、缶コーヒーに口をつけた。
「そういう相手だから気にする必要ないよ。それに、翠葉ちゃんはまだ進路悩んでるんでしょ? うちの会社に就職しない? 俺にはそういう道も提示してあげられるんだけど? あ、別にツカサと付き合っててもかまわないよ?」
急すぎる話にびっくりしすぎて頭がついていかない。
「ま、つまり……君が誰を選ぼうと、俺は君を諦めるつもりはないし、いつだってこうやって会いに来る。でも、今はちょっとアメリカに行かなきゃだから、先に話をさせてもらったんだ。この会話の続きは電話でもいいし、帰国してからでもいいよ」
「でもっ……秋斗さんしばらく帰ってこないんじゃ――」
「……あぁ、そうだった。そこの嘘つき小僧がそんなこと言ってたんだっけ?」
くすくすと笑いながらツカサを見る。
「それは嘘だよ。君を動かすためのね。仕事の都合で一ヶ月くらい不在だけど、四月前には帰ってくる予定だから」
と、こうなるはずだったんですが……。
空港で倒れるところは同じですが、唯ちゃんと司が「社会人放棄すんな」と申すもので、秋斗さんは泣く泣く渡米することになりましたとさ……。
そんなわけで怒涛のボツ話でした(何
【追記】
古いファイルを漁ってたらずっと探していたボツ話が出てきました(をぃ
唯ちゃん×司のお話しです。
時系列で言うなら、翠葉さんが司に突き放されて、病室で必死に空港までのルートを検索しているあたりの裏話。
「唯さんなら翠がどのルートを探索したのか追えますよね?」
「……そういうとこ、ホント秋斗さんとそっくりだよね? 司っち」
「なんとでも……秋兄が俺の人格形成に関わってることには変わりありませんから」
ほんっとにかわいくないというか、秋斗さんの高校時代はこの素地にオールマイティーな笑みとを八方美人を持たせただけの差かもしれない。
「追えるよ、追える。そんなの朝飯前」
タンっとエンターキーを押してその画面を彼に見せる。
何通りか出てきたけど、たぶんこれ……。
「どれだと思う?」
訊けば彼も同じ答えを提示した。
「翠は電車やバス、公共の乗り物に慣れてない。だから、極力乗り換えの少ないこのルートでしょうね」
それは病院からバス、もしくはタクシーで藤倉の駅まで出て、電車に乗り空港直通のバスがある駅で降りる、というルートだった。
「空港直通のバスなら屋内だし移動は全てバスがしてくれる」
バス電車バス……。それか、タクシー電車バス。
早朝に抜け出すことを考えるとタクシーを呼ぶのは難しいだろう。病院側が警戒することくらいリィだって考えるはずだ。だとすると――。
「バスですね」
「バスだね」
顔を見合わせて少し意外そうな顔をした。
「リィが考えてることなんてお見通しってわけか」
俺がそういうと、
「なんでもっていうわけじゃないです」
と、無表情で答える。
司っちがリィの病院脱走計画を持ちかけてきて以来、彼はほとんんど表情を変えない。無表情を守り通している。
「もう一度聞いていい?」
「何をですか」
「どうして行かせるの? このままいたら司っち有利じゃん。なんでわざわざ?」
「自分のためですよ。……先日は翠のためとか言いましたけど」
「どうして君のためになるの?」
「後味が悪くなるのが嫌なだけです。それから……譲られるのも癪でしかない」
後味と譲られる……か。
「譲るんじゃなくてただ逃げただけだったらどうする?」
「そんなの、捕獲するに決まってるじゃないですか」
あまりにも当然と言ったように口にするからおかしかった。
「全然違うのに、すごい根っこが似てるね?」
彼は表情も変えず、
「以前なら反論したでしょうけど……。もう、それについて反論するつもりはありません。俺が秋兄に影響を受けてここまできたのは事実ですから」
と、答えた。
まるで、自分と秋斗さんが同じ人を好きになるのも必然だったとでも言うように。
「ねぇ、偶然と必然だったらどっちを信じる?」
「二分の一の確率なら、俺は必然を信じます」
「……ありがとう」
「なんでお礼を言われてるのかわかりかねるのですが……」
「偶然でなんかあってほしくないことってあるでしょ?」
「………………」
「俺さ、血のつながった妹を好きだった。妹も俺を好きだった。でも、妹は長く生きられる体じゃなかった。もし兄妹として一緒にいなかったら、知り合うより前に芹は死んでたかもしれない。短い人生だからこそ、兄妹として生まれて一緒に過ごす時間を誰よりも多く持つことができた」
ずっと思ってたんだ。
どうして兄妹なんだって――ずっとずっと思ってきたんだ。
でも、もしそれが必然ならって考えると、今みたいな答えが出る。
「好きな人が妹だった理由はそういう必然性があったから――そう思うと自分が救われる。だから、ありがとう」
「……俺は何もしてない。それは唯さんが自分で考えて導き出した答えでしょう」
「それでも必然を指示してくれる人間は二分の一の確率だからね」
そう言って笑うと、彼は無表情を崩し、
「それは、そうですね……」
と、ほんの少し笑みを見せた。
作られた笑顔じゃなくて、普通に笑った。
こんなお話しもあったんだよー。
実は空港から帰ってくるところに後半部分のおはなしを入れたかったのですが、この下書きがどこにあるのか見つけられなくて、同じものが書けないのが嫌でスルーした件……。
後日、司サイドにこそっと加筆しておこうかな……。
またファイルがどこかにいっちゃいそうなので、一応ここにボツ話としてあげておく(駄
なんとなく気づいてはいた……。
やっとわかった……。
今まで何度となくやってきたことなのに、なんで気づかなかったのか――。
翠を望むなら、翠を得ようとするなら、そのために必要なことはただひとつ。
翠を全力で突き放さす必要がある。
「なんで――なんでこんな面倒くさい人間なんだか……。こんな……したくもない回り道をさせる……」
それでも俺は突き放す。
容赦なく。これ以上ないまでに。
得るために、翠を突き放す。
そうしないと得られないから――。
実際はと言うと、秋斗さんの行動に頭の容量持っていかれていて、翠葉さんを追い詰めるっていうのがメインではなくなってしまったがゆえに使えなくなったもの。
どこかに入れたかったんですけどね。
入れられなかったんです。
結局、やってることは変わらないんですけども……。
お次は、翠葉さん尾行話。
当初の予定では、司に突き放された翠葉さんはひとり病院を抜け出して空港まで行く、という設定だったのです。
でも、大きな手術をしたあとだし、どうやっても警護についてる人たちを振り切れるわけもないし、と非現実的であることが発覚し、路線を泣く泣く変えたしだい……(苦笑)
(だから、上の司の追い詰めると決めた部分が書けなくなった、というのもあるのです(〒_〒)ウウウ )
お話しは翠葉さんが病院を抜け出し、タクシーを使って駅まで行き、始発電車を乗りついでリムジンバスに乗る直前に黒塗りの車に連れ去られたところからです。
「っ!?」
車はするりと走り出し小さくなっていく。携帯を取り出し、自分付きの護衛に連絡を入れようしたとき、見知らぬ車が自分の脇に停まった。
す、と窓が下がり、見知った顔がにこりと笑む。
「お車、ご入用ですか?」
支倉と名乗る男だった。
すぐ助手席に乗り込みドアを閉める。
「では、ドライブと参りましょう」
こんな状況で何を暢気に――。
そこまで思ってはっとする。
「なんで支倉さんがここに?」
支倉は相変わらずしまりのない顔で、
「いやですねぇ……。司様や秋斗様のすることをボスがご存知ないわけがないじゃないですか」
「……秋兄は知らない」
「関係ありませんよ。ボスの可愛いヒヨコさんたちは常に見られてますから」
これ以上無駄な会話はしたくない。
「前の車、追跡はできるんだろうな」
訊くと、
「その必要はありません」
「っ!?」
「そう焦らずに」
あくまでものんびりとした口調で話す。
「さっきの車のナンバーは覚えておいでですよね?」
覚えたてのナンバーを答えると、
「それは本家の雅嬢専用車のナンバーです」
言われて驚く。
「彼女が向かうのは秋斗様がいらっしゃる空港です」
「知っていることがあるなら全部話せっ」
イラつきを抑えずに言うと、ブルブルと震えて見せた。あくまで安定した運転をしながら……。
「雅嬢も見ていられなかったのでしょう。電車の乗り換えにおろおろし、バス乗り場で苦戦している彼女が」
……雅さんも今日の翠を尾行していた?
「今日のことはごく僅かな人間しか知らないはずだ……」
僅かな人間のうちには秋兄は含まれていない。翠の警護班は動かしているものの、それすら秋兄には伏せてもらっている。
「ボスですよ。ボスが雅嬢に話しました」
「っ!?」
「……詳しくは申せませんが、雅嬢はどうやらあのお姫様に救われたそうです。ですから、今回のこともボスから聞いて何かしたくなったのかもしれません」
「言ってる意味がわからない。雅さんにとって翠は嫉妬の対象になりこそ、翠に救われたなんてあり得ない」
「それがあるのだから世の中不思議ですよね~」
「あるわけない。翠と雅さんが接触したのは過去に一度だけだ」
越谷の件は、まるで関係ないとは言い切れないが、それでも翠とは接触などしていない。
「そのあたりは今度ご本人にうかがってみたらいかがですか? あ、追いつきましたね。ほら、あの車空港へ向かっているでしょう?」
翠を連れ去った車は確かに空港へ向う方へと指示器を出し、滑らかな運転で分岐を左に行った。
「シャトルバスに乗るよりもベンツのほうが乗り心地も良いでしょうし。お姫様にとっても良かったのではないですか? バスでは風邪をもらうんじゃないか、知らない人間に声かけられたりと、司様も心配が絶えないでしょう?」
どこか楽しげに笑いながら言われる。
「…………雅さんが敵意を持って翠に近づいてるわけじゃないなら、いい」
空港に着くと翠は車から降り走り出した。
「さ、ここからは司様の出番ですよ。いってらっしゃいませ」
最後の言葉を聞き終える前にドアを閉め走り出す。
雅さんの乗る車の脇を通ったとき、雅さんと目が合った。
ツン、とすぐに視線を逸らされたが印象が悪いわけではない。"キツイ"イメージはそのまま。しかし、悪意は感じなかった。
何より、翠をここまで連れて来たことがそれを証明している。
俺は意識を翠に戻し、白いコートを着た後姿を追った。
雅嬢をもう一度出したかったのですが、お話しのルートが変わったら出せないことに……。
でも、実は雅嬢、とても近いところにいます。
Season2に出てくるかもしれませんが、秋斗さんが立ち上げた会社の一社員です。
えぇ、実はとても優秀な方なので、そして即戦力になるほど語学にも長けており、心理学のほか、経営学もかじっているような人なので、海外拠点の責任者に抜擢されています。
それは国内では実家との折り合いが悪いのを考慮して、というもの。
海外には、彼女が初等部にいたころの保健医が在住していて、その人のもとで生活を再スタートさせる、という設定なのです。
(その保健医さんだけが雅嬢の心の傷を知っていた、という設定です)
あと、翠葉さんがひとりで動くと決まったときに司がとった行動のひとつ。
これを入れたいなぁ……、そしたらこれを(↑上の支倉さんとの会話)書き直さなくちゃいけないなぁ、と思っていた内容。
司×静さんのお話です。
「静さん、ゼロ課の人間はまだ翠についてますよね」
「あぁ……今度は何をするつもりだ?」
「とくには何も……。ただ、自由にするだけです」
「ほぉ……。それもかなりの力技で自由にするつもりか」
「……相手が翠なので」
「それの意味するところは?」
「……優しくするだけじゃなまぬるい。そんなんじゃあいつは動かない」
「……だから、追い詰める――か」
「…………」
「私としては親友夫婦の娘さんには優しくありたいんだがな」
「それはそちらの事情でしょう。こちらにはこちらの事情があります」
「察するよ。何せ、碧と零樹の娘だからね。差しあたって何をすればいいのかな?」
「ゼロ課だけで警護は不十分ですよね?」
「あぁ……そういうことか。警備を動かしたいんだな?」
「はい。秋兄に悟られず……」
「しかし、そこは私の管轄ではないし、秋斗に気づかれずに動かすのはかなり難しいと思うんだが……」
「だから静さんの権限が欲しい」
「……なんだ、すでに手配済みなのか?」
「唯さんの協力なしには無理でしょう? けれど、唯さんが犯罪を犯さず自由に動くには秋兄より力のある人間からの命令なり指示が必要になります」
「わかった。許可しよう」
「ありがとうございます」
「ただし――」
「心配なさらず……。翠の体はまだ万全じゃない。でも、こっちも強硬手段に出るからにはバックアップ体制は整えています。姉さんから聞いてませんか?」
「……聞いてないな」
「姉さんをはじめ、病院側を巻き込んでいます」
「なるほど。そこらへんは手抜かりなくということか」
「……自分だって、翠を危険に晒したいわけでも危険を冒したいわけでも苦しい思いをさせたいわけでもない」
「わかった。やりたいようにやれ」
「ありがとうございます」
本当はゼロ課を出したかったんです(苦笑)
でも、お話しのルート変わっちゃったから出せなかった(苦笑)
こうやって要所要所に置いておいたポイントを軒並みスルーされた件。
いつだって作者形無しです……orz
どんなに誘導をがんばってみてもそっぽ向かれてばかり。
悲しい……(〒_〒)ウウウ
それでですね、走りに走ってすっごく体調が悪い状態の翠葉さんが空港で秋斗さんを見つけ、秋斗さんに答えを言うわけです。
秋斗さんのことを好きだったけど、今は司が好きです、って。
その直後に倒れるわけですが、背後から現れた司が、
「やっと選んだ――バカだな。最初からこうすれば良かったものを……。翠がどっちを選んでも漏れなくもうひとりくっついてくるんだ。どっちかを失うことなんてあり得ない。俺たちのつながりを誰よりも知ってるくせに……。早く気づけよ……」
と、ボソリと呟くシーンなどがあったのですが(〒_〒)ウウウ
えぇ、ことごとくボツですよ、ボーツー(苦笑)
そのあと、ヘリで病院まで運ばれるのは同じなのですが、ICUで目が覚めたときのお話もボツ話としてご用意してあります(ただ単に本採用されなかったから“ボツ”という名のお話になってしまっただけ……)
目が覚めると秋斗さんがいた。そして、ツカサがいた。
「おはよう」
ふたり口々に言う。
私が何か話さなくちゃと思って口を開けると、ツカサに水差しを突っ込まれた。
「翠の話しは後。とりあえず診察が先だから」
ナースコールはすでに秋斗さんが押していた。
湊先生の診察が済むと、再びふたりがベッド脇にやってくる。
再度、私が口を開こうとしても、やっぱりツカサに遮られた。
「この人、とっととアメリカに行かせなくちゃいけないから、優先順位的にこっちが先」
秋斗さんは苦笑する。
「ごめんね。親御さんより先に俺たちいれてもらっちゃてるから」
そう言われてみれば……と思いながら、秋斗さんに視線を戻す。
「俺、会社を立ち上げたんだ」
「え……?」
「翠葉ちゃんに作ったようなモバイル医療機器専門のね。湊ちゃんたち現場の声を聞きながらあったら便利なものを作る会社」
いきなりすぎてなんの話をされてるのかに戸惑った。
「話を戻すね。翠葉ちゃん、今は司を好きでいいよ。両想いならふたり付き合えばいいと思う。でも、俺は翠葉ちゃんが誰を好きでもかまわずに君が好きだから」
「っ…………」
「うざったい? 重い?」
訊きながら笑う。
「でも、そのくらいは勘弁してほしいな。それに――またいつ心変わりするかわからないでしょ?」
ドキっとした。
「翠葉ちゃんは俺を好きだったのに、記憶が戻った時に司が好きで……そのことにひどく心を痛めたんでしょう? でも、俺はそんなの気にしないから……。願わくば、また心変わりして俺を好きになってもらえないかと期待する」
「図々しい……」
ツカサが零す。けれど、
「お前だって俺の立場だったら同じこと思うだろ?」
「……だろうね。実際、秋兄じゃなくて俺を好きになればいいと思ってずっと待ってたわけだし」
しれっと答えて、缶コーヒーに口をつけた。
「そういう相手だから気にする必要ないよ。それに、翠葉ちゃんはまだ進路悩んでるんでしょ? うちの会社に就職しない? 俺にはそういう道も提示してあげられるんだけど? あ、別にツカサと付き合っててもかまわないよ?」
急すぎる話にびっくりしすぎて頭がついていかない。
「ま、つまり……君が誰を選ぼうと、俺は君を諦めるつもりはないし、いつだってこうやって会いに来る。でも、今はちょっとアメリカに行かなきゃだから、先に話をさせてもらったんだ。この会話の続きは電話でもいいし、帰国してからでもいいよ」
「でもっ……秋斗さんしばらく帰ってこないんじゃ――」
「……あぁ、そうだった。そこの嘘つき小僧がそんなこと言ってたんだっけ?」
くすくすと笑いながらツカサを見る。
「それは嘘だよ。君を動かすためのね。仕事の都合で一ヶ月くらい不在だけど、四月前には帰ってくる予定だから」
と、こうなるはずだったんですが……。
空港で倒れるところは同じですが、唯ちゃんと司が「社会人放棄すんな」と申すもので、秋斗さんは泣く泣く渡米することになりましたとさ……。
そんなわけで怒涛のボツ話でした(何
【追記】
古いファイルを漁ってたらずっと探していたボツ話が出てきました(をぃ
唯ちゃん×司のお話しです。
時系列で言うなら、翠葉さんが司に突き放されて、病室で必死に空港までのルートを検索しているあたりの裏話。
「唯さんなら翠がどのルートを探索したのか追えますよね?」
「……そういうとこ、ホント秋斗さんとそっくりだよね? 司っち」
「なんとでも……秋兄が俺の人格形成に関わってることには変わりありませんから」
ほんっとにかわいくないというか、秋斗さんの高校時代はこの素地にオールマイティーな笑みとを八方美人を持たせただけの差かもしれない。
「追えるよ、追える。そんなの朝飯前」
タンっとエンターキーを押してその画面を彼に見せる。
何通りか出てきたけど、たぶんこれ……。
「どれだと思う?」
訊けば彼も同じ答えを提示した。
「翠は電車やバス、公共の乗り物に慣れてない。だから、極力乗り換えの少ないこのルートでしょうね」
それは病院からバス、もしくはタクシーで藤倉の駅まで出て、電車に乗り空港直通のバスがある駅で降りる、というルートだった。
「空港直通のバスなら屋内だし移動は全てバスがしてくれる」
バス電車バス……。それか、タクシー電車バス。
早朝に抜け出すことを考えるとタクシーを呼ぶのは難しいだろう。病院側が警戒することくらいリィだって考えるはずだ。だとすると――。
「バスですね」
「バスだね」
顔を見合わせて少し意外そうな顔をした。
「リィが考えてることなんてお見通しってわけか」
俺がそういうと、
「なんでもっていうわけじゃないです」
と、無表情で答える。
司っちがリィの病院脱走計画を持ちかけてきて以来、彼はほとんんど表情を変えない。無表情を守り通している。
「もう一度聞いていい?」
「何をですか」
「どうして行かせるの? このままいたら司っち有利じゃん。なんでわざわざ?」
「自分のためですよ。……先日は翠のためとか言いましたけど」
「どうして君のためになるの?」
「後味が悪くなるのが嫌なだけです。それから……譲られるのも癪でしかない」
後味と譲られる……か。
「譲るんじゃなくてただ逃げただけだったらどうする?」
「そんなの、捕獲するに決まってるじゃないですか」
あまりにも当然と言ったように口にするからおかしかった。
「全然違うのに、すごい根っこが似てるね?」
彼は表情も変えず、
「以前なら反論したでしょうけど……。もう、それについて反論するつもりはありません。俺が秋兄に影響を受けてここまできたのは事実ですから」
と、答えた。
まるで、自分と秋斗さんが同じ人を好きになるのも必然だったとでも言うように。
「ねぇ、偶然と必然だったらどっちを信じる?」
「二分の一の確率なら、俺は必然を信じます」
「……ありがとう」
「なんでお礼を言われてるのかわかりかねるのですが……」
「偶然でなんかあってほしくないことってあるでしょ?」
「………………」
「俺さ、血のつながった妹を好きだった。妹も俺を好きだった。でも、妹は長く生きられる体じゃなかった。もし兄妹として一緒にいなかったら、知り合うより前に芹は死んでたかもしれない。短い人生だからこそ、兄妹として生まれて一緒に過ごす時間を誰よりも多く持つことができた」
ずっと思ってたんだ。
どうして兄妹なんだって――ずっとずっと思ってきたんだ。
でも、もしそれが必然ならって考えると、今みたいな答えが出る。
「好きな人が妹だった理由はそういう必然性があったから――そう思うと自分が救われる。だから、ありがとう」
「……俺は何もしてない。それは唯さんが自分で考えて導き出した答えでしょう」
「それでも必然を指示してくれる人間は二分の一の確率だからね」
そう言って笑うと、彼は無表情を崩し、
「それは、そうですね……」
と、ほんの少し笑みを見せた。
作られた笑顔じゃなくて、普通に笑った。
こんなお話しもあったんだよー。
実は空港から帰ってくるところに後半部分のおはなしを入れたかったのですが、この下書きがどこにあるのか見つけられなくて、同じものが書けないのが嫌でスルーした件……。
後日、司サイドにこそっと加筆しておこうかな……。
またファイルがどこかにいっちゃいそうなので、一応ここにボツ話としてあげておく(駄